春風はじめました

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  「春風は季節の贈り物。でも、春風が贈り物ではありませぬ。春風があなたの贈り物を届けてくれる、いわゆるサービス業といいましょう」  そんな私が聞いているのかも構わずに、春風うりはひとり、一息に語って手を差し出してきた。 「どぞ? 春風はいらんかいね? 届けたいものはありませんかいね?」  女の子らしい白い手のひらに映えて、薄紅色の花びらが二枚ある。  それを見た私の口から、拍子抜けした声が出た。 「それが、春風?」 「はいな」  春風うりが頷いて、ひょいと、花びらが一枚つままれる。 「この一枚の春風をひと息吸えば、身体の中で嵐が生まれましょう。その勢いで贈り物をどこへでもどこまでも届けてくれる春風です」  ひょいと、二枚目の花びらがつままれる。 「この一枚の春風は、背中を押してくれましょう。あなた様が臆するこのないよう、そっと後押しをする春風です」  説明すれば、春風うりは二枚の花びらを私の手に握らせた。  素直に受取った私に、春風うりは『リン』と笑う。その頭のてっぺんにあるお団子から下げられた二つの鈴が揺れた。
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