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私は窓辺に寄りかかると、走り続けるバスの窓を力いっぱい上に押し上げた。
少しずつ開く窓から、バスの車体が切った風が吹き込んで重たくなるけど。それでも全開になるまで押し上げて、私は上半身を開いた隙間にねじ込んだ。
外の景色が近くなる。
いつぶりだろう。窓の外がこんなに明るいと感じるのは。
けれど感動している場合ではない。
近づいている。
市民病院の看板の前を通り過ぎるタイミングを計りながら、私は建物の壁に並ぶ窓の一つに狙いをすませて手を伸ばした。
――春風一枚目。
指先からはがれた花びらから、小さな台風のような風が巻き起こる。
それをひと息のみこめば、風の勢いは私の身体の中で大きく広がった。
嵐のような風の勢いは、私の想いを身体中からかき集めて吹き荒ぶ。
止まらない勢いはもう吐息などではない。
吐き出した。
、、、
「――好きよ」
届け。
届け――届け!
「――好きよ、好き。だあい、好き!」
届け!!
「ありがとう――」
本当なら、届くはずが無い。
バスの大きな車体が混ぜた風の勢いに負けて、私の細い声などかき消されてしまうはずなのに。
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