ep.4 おんなのこ

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「先生って、もしかして、彼女いたことないの?」 ぴくっと反応した俺の瞼の動きを、彼女は気づいてしまうだろうか。 「ノーコメントってことにしておくよ。明日は、長文読解だからね。 辞書で単語の意味を調べるのは三回までにしよう。 前後の文から予測できるようにしとかないとな。」 「はーい。あ、そうだ。先生、明日ってちょっと早めに来れる? お母さんがケーキの味見してほしいんだって。」 「ケーキ?誰かの誕生日なの?」 「ううん。先生に食べてほしいんだって。」 「わかりました。少しだけ早めに来ますとお伝えください。」 かくして彼女の思春期の好奇心は泡となって消えましたとさ、めでたしめでたし。 「先生、もしかして、彼氏がいるとか?」 軽く持っていた参考書を綺麗なフローリングの床にぶちまけるという失態をしたことを、 隆に話したらどんな風に慰めてくれるだろうか。 「“彼女がいない=男が好き”という公式は、必ずしも成り立ちません。 ノットイコールですよ。」 「先生理数系だったっけ?」 「思いっきり文系だよ。例えだよ、例え。」 これだから、思春期は侮れない。 でも、こんなことであたふたするような俺ではないはずなんだけどな。 こういう状況前にもあったな。 いつもスルーできることにいちいちつっかかってしまうような。 「やっぱり明日は定時に来るよ。」 「えーなんでー。怒ったんですか?」 「いや、恋人と約束があるの忘れて、た。」 「嘘つきです、先生。」 「嘘はついてないよ、生徒さん。」 嘘は、ついていない。 彼女はいないが、彼氏はいるんです。 今日は何処にも寄らないで、 誰にも会わないで、まっすぐ家に帰ろう。 家に帰ったら、少しだけ今日のことを隆に話そう。 そして、久しぶりに何もせずにゆっくり寝よう。
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