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梅の精霊というのは、紅梅でも白梅でも黒い髪と瞳をしており、各々の花弁と同じ色の着物を着ておるんじゃそうだ。
でもな、あの梅の精霊の瞳は着物と同じ赤い色をしておった。
幽霊のように真っ白な肌に映える鮮血を固めたような赤い瞳には魅惑的な美しさがあって、心を乱し魂を吸いとる夜叉のようだと他の梅の精霊達から軽蔑され、『赤目梅』と呼ばれ忌み嫌われておったんじゃ。
梅の精霊達だけではなく、他の草木の精霊も、動物も鳥も赤目梅には近付いてこず、いつも一人で空を見上げていたそうじゃ。
寂しかったんじゃろうな。
空は誰の上にも平等に広がっておるからな。
自分と同じようにこの空を見上げている人がおるのだろう、と思うことで他人と繋がっている気分になっておったんじゃろう。
娘達が嫁ぎ、おじぃにも先立たれて、こんな静かな田舎で一人で暮らしとると、赤目梅の気持ちがよく分かるわい。
いかんいかん、話が逸れてしまったのぅ。
赤目梅は、来る日も来る日も空を見上げておった。
精霊というのは、宿った草木から多少の距離ならば自由に動き回れるものらしいのじゃが、四六時中空を眺め続けていた赤目梅は、いつの間にか木の傍から離れられなくなってしまったそうじゃ。
春になる度に、己の存在を知らせるように、その瞳と同じ鮮やかな赤い花を咲かせておったんじゃが、赤目梅に近付いてくる者は誰一人としておかんかった。
それでも諦めず、花開き続けていたある春のことじゃ。
独りぼっちの赤目梅を唯一受け入れ包んでくれ、毎日見上げることを許してくれていた空の彼方から、何かが落ちてきた。
それは、真っ白な翼を優雅に羽ばたかせ、地上に舞い降りてきた天使じゃった。
翼と同じ純白の衣を纏った天使は、降り注ぐ太陽の光で煌びやかに光り、金色の髪と空と同じ澄んだ青色の瞳に、赤目梅は見惚れてしまった。
天使も、艶やかな漆黒の髪と雪のように白い肌、その白肌を引き立たせる真っ赤な着物と同じ宝石のような赤い瞳に魅せられた。
のちのち、互いに一目惚れをしたのだったと気付いたようだが、その時はまだ沸き上がってきた感情の正体には気付いていなかったようなんじゃ。
何故なら、赤目梅も天使も、男だったからじゃ。
なんじゃ、嬉しそうな顔をするってことは、お嬢ちゃん達は腐女子かい?
フフフ、びーえるが好きな孫の影響でな、おばぁも腐婆なんじゃよ。
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