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天使は、天界でも位の高い貴族で、天界に数人しかいない大天使の補佐をしておって、自身も将来は大天使になるのが運命付けられていたそうじゃ。
休暇で、特に行き先を決めずに舞い降りた地上にいたのが、赤目梅の精霊だったんじゃ。
木の傍から動くことのできない赤目梅に、仕事や休暇で訪れた様々な土地の話を聞かせてやった天使。
雲の上にある桃源郷のような天界の様子や、地上にしかない険しい山々や果てしなく広がる大海の話を、赤目梅は真っ赤な瞳を好奇心いっぱいに輝かせて聞いたんじゃ。
訪れた場所を思い返しながら話す天使の脳内では、自分の隣で無邪気に笑う赤目梅がいて、天使の話を聞きながら見たことのない場所を想像する赤目梅の脳内でも、はしゃぐ自分を隣で優しく見守ってくれている天使がいた。
互いの存在を、はるか昔から共にいる相方のように、自然に受け入れておったんじゃな。
孫が好きだと言っておったびーえるで、互いを魂の伴侶と呼びあっているのがあったんじゃが、赤目梅と天使はそれだったんじゃろうな。
天使は休暇の間、ずっと赤目梅の傍らにいて、自叙伝を綴るように己の記憶の全てを赤目梅に語った。
赤目梅も、仲間に無下にされ毎日毎日空を見上げていた日々を、躊躇いながらも話した。
互いの記憶を共有することで二人の距離はぐっと縮まり、運命共同体のような特別な相手として認識しあうようになったそうじゃ。
天使に惹かれていることは気付いておったが、他者と接したことのない赤目梅は、それが恋心とは分かっておらんかった。
天使の方は、二人の時間が始まってまもなく恋心を認識し、共に過ごす時間が増えていけばいくほど想いは膨らんでいった。
明日で天使の休暇は終わり、天界に帰らなければならないという晩のことじゃ、天使は赤目梅に想いを打ち明けたんじゃ。
恋がどんなものなのか知らない赤目梅じゃったが、初めて自分を見てくれた天使を拒むことなどできるはずもなく、求めてくる天使を受け入れた。
朧月夜の下、二人はその身を繋ぎ、心を重ね合わせたんじゃ。
翌朝、後ろ髪を引かれつつも、次の休暇も必ず会いに来ると言い残し天界に戻った天使は、赤目梅の精霊の宿る梅の木の根元に青い壺を置いていった。
それは、中に張られた水に天界での天使の姿が映る、特別な壺じゃった。
水面を覗けば天使に会える、もう独りぼっちではない、と赤目梅は大層喜んだそうじゃ。
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