赤目梅と天使の壺

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来る日も来る日も飽きることなく見上げていた空と同じ青い色の壺を、空以上に熱心に見つめ続けるようになった赤目梅。 天使からは赤目梅の様子は見られなかったが、目に焼き付いている美しい真っ赤な瞳を思い返し、自分の姿を覗いているだろう赤目梅に向け微笑み続けておった。 有能だと評判の天使だったが、一刻も早く赤目梅に再会するため、それまで以上に仕事を早く仕上げるようになり、天界での評価があがっていったそうじゃ。 今抱えている仕事を終えれば休暇が取れると、毎晩遅くまで仕事をこなしていた天使の元に、唐突に大天使の長が訪れたんじゃ。 大天使の長の隣には、それはそれは美しい少女の天使が立っておった。 天使を見上げる少女の頬は桜色に染まっており、天使に想いを寄せる赤目梅には、少女も天使に恋焦がれているのだとすぐに分かったようじゃった。 壺から声は聞こえないけれど、映像から伝わってくる嫌な予感に赤目梅は身震いした。 自分は仲間の梅の精霊達からも忌み嫌われており、この場所から動くこともできない非力な精霊。 天使は他のどの天界の住人よりも美しく、気高い血が流れおり、いずれ大天使になる身。 大天使の長の娘であろうあの少女と結ばれた方が、幸せになれるに決まっている。 外界を知らなかった赤目梅じゃったが、天使の置いていった青い壺を覗くようになり、天使の様子と共に外の世界についても知るようになった。 天使と自分だけの二人の世界で互いだけを見つめ愛し合った時のような、真っ白で真っ直ぐな気持ちが抱けなくなっていたんじゃ。 天界の住人達を見て、自分がどれだけ醜く劣っている存在なのか知ってしまった赤目梅は、優秀で美しいあの天使が自分を選ぶなんて思えなかったんじゃな。 だけれど、天使を想う気持ちは消えず、今も変わらず胸を焦がしている。 愛しくて堪らない天使が自分以外を選ぶ姿を見ることなどできるはずもなく、赤目梅は壺に張られた水を抜いてしまったんじゃ。 天使が魅了され、天使に愛されることで輝きの増した真っ赤な瞳は、涙で充血し痛々しくなってしまった。 誰からも相手にされず独りぼっちであっても、いつか訪れる希望を信じ空を見上げていた瞳からは光が消え、天界との繋がりが切れてただの壺になったその青色を、ぼんやりと眺めるようになってしまったそうなんじゃ。
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