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瞳に映っている物は何色をしているのか、そもそも何なのかすら分からなくなってしまった壺を、ただただ眺め続けていた赤目梅が、頬に感じる擽ったさに視線をあげると、自らが宿る梅の木の枝に赤い花がたわわに咲き誇っておった。
花開く度に誰かに気付いてもらえるんじゃないか、と期待に胸を膨らませておったのに、満開の花を見ても何も感じなかったんじゃという。
赤目梅の心は天使が持っていってしまって、天使と繋がっていた青い壺の水を抜いてしまった時に、心はなくなり感情を抱かなくなってしまったんじゃ。
独りぼっちの時は仲間からどんなに罵倒されても折れることのなかった心なのに、他人の温もりを知り愛を覚えたあとでは、心を保つことはできなかったんじゃな。
魂の伴侶を想うことが許されないのならば、心などいらないと思ってしまったんじゃろう。
心はなくなり、なんの感情も抱くことはないと思っておったのに、真っ赤な花弁の上に広がる澄んだ青空を見た途端、愛しい相手の瞳を思い出してしまい、とっくに枯れたと思っていた涙が溢れてきてしまった赤目梅じゃった。
天使と出会った季節が、赤目梅の心を揺り動かしたのかもしれんのぅ。
涙で滲む青空を見上げながら、かつて天使が話してくれた海はこんな風に見えるのだろうか、と考えていると、空の彼方から何かが落ちてきたんじゃ。
天使が舞い降りた時と同じ光景に、赤目梅の胸はざわめいた。
再び天使が会い来てくれたのかもと弾みそうになる胸を、期待しても違っていて打ち沈むだけなのだから、と抑え付けた赤目梅。
じゃが、抑えても抑えても沸き上がってくる仄かな期待に、落下物から目を逸らせなかったそうなんじゃ。
真っ白な翼を優雅に羽ばたかせて舞い降りた天使とは違い、重力に任せて無様に落ちてくる物体。
そら見たことか、期待などするべきではなかっただろう、と自嘲して壺なのか何なのか分からなくなってしまっているのに、どうしてだか執着してしまう青い壺に視線を落とした赤目梅の背後で、何かが地面に叩き付けられた音がしたんじゃ。
見るつもりなどないのに、体が勝手に動いて振り返ってしまった赤目梅。
視線の先にあったものに、光を失った赤い瞳が輝きを取り戻していった。
しかし、正常に働くようになった瞳の捉えた光景に、戻ってきた輝きは消え、絶望の闇に覆われてしまったんじゃ。
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