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赤目梅の見つめる先におったのは、常に優しい微笑を浮かべていた顔を苦しそうに顰めている天使じゃった。
優雅に羽ばたいていた羽根はなくなっていて、羽根のあった背中からはどぼどぼと血が溢れ、純白の衣を赤く染めていっておった。
天使は赤目梅との愛を貫くため、大天使の長の娘との結婚を断ったんじゃ。
天使との結婚を諦められない大天使の娘は、父である大天使の長にどうにかしてくれと泣きついたんじゃ。
娘の幸せがこの世の全てだと思っておる大天使の長は、天使の記憶を覗いた。
そして、天使が赤目梅と契ってしまったことを知ったんじゃ。
天使の寿命は果てしなく長いのに、繁殖期は生涯に一度しかこないらしいんじゃ。
子孫を残すため、天使は天使の異性としか契ってはならぬという掟があった。
じゃが、その掟は古い書物に記されているだけで、天界を仕切る大天使の長でさえ知らぬものじゃった。
なぜなら、天使は天使の異性としか惹かれあわないからじゃ。
天使は最初に契った相手を生涯愛し続けるので、赤目梅と契ってしまった天使は他の天使と愛し合うことはない。
自分達よりも格段に劣るみすぼらしい精霊の、しかも同性と契ってしまうなんて、天使の異性にしか惹かれない他の天使達には信じられないことじゃった。
恐怖と怒りに支配された大天使の長は、天使の羽根をもぎ取り地上に落としたんじゃ。
羽根を失っておるのに行きたい場所に辿り着けるなんて到底無理な話じゃが、惹かれあう互いの魂に導かれてか、天使は赤目梅の元に落ちてくることができたんじゃな。
堕天使にされた天使じゃが、苦痛に耐えながらもあげた視線の先に真っ赤な瞳があり、これでずっと赤目梅の傍におれると喜んだ。
心底嬉しそうに微笑むその顔に、天使まだ自分を愛しているのだと分かった赤目梅は、天使の背中から溢れる血を止めようと、必死で傷口を押さえた。
じゃが、血は止まることなく、天使の純白の衣を真っ赤に染めていったんじゃ。
天使は、赤目梅の纏う着物とお揃いだと、それはそれは嬉しそうに微笑み、赤目梅の腕の中で息を引き取ったんじゃそうな……。
そろそろ白雪ちゃんに行く時間じゃろ?
ほらほら、いけめん給仕に会いにいくんじゃ、涙を拭いて化粧を直しなされ。
ん? その後はどうなったかって?
フフフ、春先になったら、またここに訪れてご覧なさい。
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