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鴬が春の訪れを知らる頃――
「あ、あそこ、何の花だ?」
「梅ではないですか?」
「梅? なんか、色が変じゃないか?」
「本当ですね、見に行ってみましょうか」
茶髪で青い瞳の長身の青年が、自身より頭半分ほど小さい黒髪に黒い瞳の青年を促し、視線の先にある満開の花を纏った古木を目指す。
永久に共に歩き続けるのだと言わんばかりに寄り添い、当然のように同じ歩幅で歩み寄った先にあったのは、茶髪の青年の言っていた通り、枝も花弁も梅の様相を呈していた。
「梅のようですが、初めて見る色ですね」
「アンタが初めてってことは、相当珍しいってことだな」
「えぇ、突然変異かもしれませんね」
「ふーん。でも、凄く綺麗だ」
「そうですね。今まで見た梅の中で一番美しい」
うっとりと細められた二人の瞳の先の枝には、血液のような鮮やかな赤い花と、澄んだ泉のような淡い水色の花が交互に咲き誇っていた。
仲のよい恋人同士が、枝のベンチに何組も並んでいるような風景。
赤の梅も、淡い水色の梅も、同じ形をしているので、一組の恋人同士の思い出の写真が枝に飾られている、という方がしっくりくるだろうか。
そんなことを考えながら、隣で一心に梅を眺める黒髪の青年に目を遣った茶髪の青年が息を呑む。
「どうした?」
茶髪の青年の気配が変わったことに気付いた黒髪の青年が梅から視線を隣に移すと、その漆黒の瞳を瞠った。
「光の加減でしょうか、貴方の瞳がこの梅の花弁のように真っ赤に染まって見えたんです。ルビーを嵌め込んだような美しさに息を呑んでしまいました」
「俺も光の加減なのかな、アンタの髪が金髪に見えた。なんか、天使みたいで……」
「天使みたいで、何です?」
「天使みたいで綺麗だったんだよ、最後まで言わなくても分かれよ!」
照れているのか、真っ赤に頬を染めて突っ慳貪に叫んだ黒髪の青年が、茶髪の青年から顔を逸らす。
「あ……」
「どうしました?」
「この壺の中、見てみろよ」
「これは……絶景ですね」
梅の根元に置かれた青い壺に張られた水に映り込んでいたのは、たわわに咲き誇る赤と淡い水色の花弁と、其れを包むように覆う真っ青な空だった。
どちらともなく掌を握りあい寄り添った二人は、どうしてだか郷愁を感じる景色をいつまでも眺めていた。
《終》
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