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「ホントに葵は泣き虫だね。
だけどそういう君も
僕は本当に好きだったよ」
過去形で伝えた思いで
彼女を解放して
あげられただろうか。
身体で縛り付けて来た
歪んだ俺を彼女の中から
消してあげれるだろうか。
何か言いかけた彼女の唇を
指先で塞いで俺はその言葉を
静かに落とした。
「桐生君を信じて支えてあげて」
それでも俺は最後まで
君を守りぬくから。
ゆっくりと閉じた
エレベーターの扉が
俺と葵を遮断した。
その瞬間、膝から力が抜け
ズルズルと箱の中で
崩れ落ちる。
悔しさと虚しさが
俺の全てを蝕んで行くのを
感じながら拳を握りしめた。
…葵…
君を…愛している…。
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