File 01 : 僕の知らない君

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 私はいつも不安だった。  いつ、彼は私を捨ててしまうのだろうか。  どうやったら、彼といつまでも一緒にいられるのだろうか。  実際、彼が私のことを好きでいてくれているのは、言葉にせずとも伝わっていた。それに、馬鹿正直で嘘が付けない彼が浮気ができないことも知っていた。  それでも、私は頻繁に彼にメールを送った。  寝る前は必ず彼に電話した。  学部の違う彼に言い寄る女がいないか、わざわざ彼の学部に行って確かめたこともあった。  ある程度自覚していたつもりだったが、友人に「重い」と言われたときは焦った。  不安が募っていたからこその行動だったが、いくら彼でもこんなに重い私に愛想を尽かすのではないか。そうやって、不安が不安を重ねただけだった。  別れは思っていたよりも早く、突然やって来た。 「俺、イギリスに留学することになったんだ」  ふたりのお気に入りであるカフェでお茶をしているとき、彼が突然そう切り出した。 「え、留学!? 私そんなの聞いてないよ」 「ごめんね、突然決まったんだ」  彼は、いつも通り笑顔を浮かべていた。しかし、いつもの屈託のない笑顔をではなく、困ったような微妙な笑顔だった。 「……それって、どれくらいの期間なの?」 「半年かもしれないし、一年かもしれない。……もしかしたら、何年も戻ってこれないかもしれない」  目眩がした。彼が、そのあとに告げる言葉が何かわかったからだ。 「俺と、別れて欲しいんだ」  何も、言葉を返さなかった。頭がクラクラして、何もわからなくなって……頭が真っ白になった。 「嫌いになったわけじゃないよ」  優しい彼の、優しい言葉。その言葉が、余計に私を苦しめた。  結局、そのあと私は何の言葉も発せられなかった。涙だけが頬を流れ、何も言わない私を、彼は家まで送ってくれた。  それ以来、一切連絡を取り合わなくなった。我ながら最悪の別れ方だ。
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