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「今後も定期的に通院してください。経過を見ましょう」
「はい」
久野はぺこりとお辞儀をすると、イスを立った。後ろにいた佐々木と目を合わせると困ったように笑う。眉が寄せられて、悲しそうな顔にも見えた。佐々木はぽん、と久野の頭を撫でる。
久野が診察室を出て行ってしまってから、佐々木はドアノブに手をかけたまま加納を振り返った。
「なんで俺がここにいるのか聞かないんですね」
加納はカルテに落としていた視線を上げる。
「なんとなくわかります」
加納は優しく微笑んだ。二人の関係のことを言っている。
「察しのいいことで」
佐々木は言い捨てて診察室を出た。残された加納はカルテを片付けつつ、長めの髪を耳にかけた。わかるもなにも、そもそも隠す気がないでしょう。彼はくすりと笑うと、看護師を呼んでカルテを渡した。
二人にとってつらい結果にならないといい、と加納は思う。久野の症状は言葉にする以上に深刻だ。原因がわからないだけ余計不安だろう。久野の症状は進行する、加納は感覚でわかっていた。言えなかったのは久野があまりにも儚げだったことと、佐々木が厳しい顔をしていたからだ。これ以上二人に現実を突きつけることは躊躇われた。けれど言わなければいけないときは来るだろう。
加納は窓の外に目を向ける。三分咲きの桜はちらほらと花をつけているが、まだ満開には遠い。桜の花は枯れない。枯れる前に散ってしまうからだ。春、もうすぐそこまで来ている季節。暖かい日差しと、潔さを眼前に広げて見せる春。
加納は立ち上がって白衣のポケットに手を入れると、ぼんやりと二人の未来を思いながら窓辺へ近寄った。
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