第二章

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「久野さん、久野修一さん」  看護師に名前を呼ばれて、待合室に座っていた久野と佐々木は立ち上がった。久野が症状を話すと、加納はCTとMRI、そしてレントゲンを撮らせた。その結果が出るまで、二人はひたすら待合室で待っていた。お互いの肩に不安を乗せたまま、けれどそれを口にすると本当になってしまいそうで、二人とも口数は少なかった。ただ、隠れて繋いだ手の温度だけ確かだった。 「検査の結果が出ました」  久野がイスに座ると、加納は難しそうな顔をしてそう言った。なにが自分に起こっているのか、久野は想像して身構えた。佐々木は相変わらず後ろの壁に寄りかかって様子を見守っている。 「結論から言いましょう」  加納が久野に向き直る。デスクには検査結果の写真がバックライトに照らされて貼り付けられている。素人が見てもわからない写真だった。なにか欠陥があるのだろうか、と久野は身体を強ばらせた。 「原因はわかりません」  久野は呆然と加納の顔を見た。加納の表情は真剣なもので、まさか医者が診察結果について嘘をつくはずがない。 「わからない、って……」 「どういうことですか」  久野が呟くと、後ろから佐々木も声を出した。加納は初めて困ったような顔をした。 「脳にはなにも異常は見られません」  きっぱりと言われた言葉に、久野は困惑した。それなら、なぜ自分にこんなことが起こっているのか。原因不明ならば治しようがないのではないか。 「人間の記憶する能力は『記銘』『保持』『追想』の三つと考えられています。この三つの能力で記憶がきちんと管理出来ているのが正常な脳の働きですが、このどれか一つでも損傷したら記憶障害に陥ってしまいます」  加納は久野がわかるようにゆっくりと話す。現実を突きつけられるのを怖がる久野は、加納から視線を逸らさないことで自分を保っていた。 「原因はいくつか考えられます。事故などが原因による外傷、脳血管障害、脳炎です」 「どれも……」  久野の弱々しい言葉は、加納に引き継がれた。 「そう、どれも当てはまらない」  ただ、と加納は言い置いて久野を見る。
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