第二章

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「刺すような頭痛が気になります。確証はありませんが、それが原因かもしれません」  そこで加納は言葉を切った。困ったように長めの髪をかき上げる。 「頭痛の原因にも様々あります。血管の拡張や炎症、心因性まで入れると数えきれません」 「原因の原因までわからないんですね……」  諦めたように笑う久野の横顔は寂しそうで、佐々木はトン、と寄りかかっていた壁を背中で押した。 「対処法は」  加納は久野の後ろに立った佐々木を見上げる。 「原因がわからないので私からの確実な対処法はありません。頭痛の原因となる障害も検査の結果認められませんでした」  加納の言葉を聞きながら、久野は俯いた。膝の上の両手をぎゅっと握り締める。 「記憶障害、また頭痛の原因は心因性の可能性があります。安定剤を出しておきましょう。それから」  加納は久野に視線を戻す。 「自分の行動や記憶をノートに書き残すことです。記憶の反復は保持に役立ちます」 「……わかりました」  緩く笑う久野はいまにも壊れてしまいそうだった。頭痛の原因も記憶障害の原因も思い当たらない。忘れたくなんかないのに頭が勝手に記憶をなくしてしまう。もし佐々木との思い出まで忘れてしまったら、と思うと震えた。
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