ケツやし!!!!

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 日曜の昼下がり。  留学生の朴さんに借りた蒸し器の蓋ががコトコト音を立てながら湯気を噴く。    「お、蒸しあがったな…」  ふたを開けると、湯気と共に甘い香りが部屋いっぱいに広がる。  「んーいい出来だ~量が多いからな…部活の連中も喜ぶだろうな…っと、その前に味見、味見っと~♪」  俺は、一つ細いのをトングで掴んで取り出す。  「あちち…ふーふー! んーうめぇ!」  齧るとふわっとした甘みが口いっぱいに広がって_____ガタン!  振り返ると、痺れを切らした同居人が『プリーズ プリーズ』とハサミを振る。    「オイ、やっしー! 棚を倒すな、お前は熱いのダメだろ? …どうなっても知らねーからな!」  俺が半分に割った紅芋を投げてよこすが、案の定ハサミを刺しては離れるという奇行を繰りかえし始めた…だから言ったろーが!    あの後、俺は結局ヤシガニを食べる気にはなれなかった。  確かに、危うく社会的地位とか男の子にとっての大切な何かとかを失う所だったがあんなつぶらな瞳で見つめられたらもう食べられない…かと言って緑の少ないこんな所で放す訳にも行かないので『やっしー』と名前をつけて少し間この部屋で飼うことにした訳だ。  まぁ、今度の正月にでも島に帰れたら山に帰してやろうと思う。  やっしーが、やっと冷えた紅芋を器用にはさみでほぐしながら体の割りに小さな口へもって行く。  俺はその様子を眺めながら、横で並んで芋を食んだ。
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