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「それならいいが…」
セシルが嬉しそうな、それでいて熱っぽい目でアラステアを見ている事はアラステアにも分かっていた。
いや、アラステアだけではなく誰の目にもそう見えているはず…。薬師達にも黒鵺にもにやにやとして見られていた。
…そうじゃないのに…。そうであってはならんのに。
「セシル…昔話をしてやろう…」
「昔話?」
栗色のさらさらの髪を撫でながらアラステアが口を開くとセシルがきょとんとした目で見ていた。
「…そうだ」
アラステアがセシルの髪の質感を楽しむようにさらさらと撫でているとセシルも気持ち良さそうに目を細めている。
「ある街に男の子が誕生した。家は下流ながらも一応貴族。決して豪奢ではなかったが可愛がられて育っていた。父は軍に所属し、子供も剣技に興味を示し、いずれ自分も大きくなったら軍に入り父と同じような道に進むと夢見ていた」
セシルが静かに耳を傾けている。
「だがまだ物心つくかつかないかの頃に両親は流行り病で次々とあっけなく亡くなってしまった」
セシルが形のいい綺麗な眉をきゅっと顰める。
「幼い子は父親の兄夫婦の所に引き取られた。兄夫婦には女の子しかいなくて、跡取りにと望まれた部分もあった。仲は良好で女の子とも本当の姉弟のように育った。…だが、またしても流行り病に両親が倒れてしまった。子供のどちらも流行り病に先にかかり、子供達を必死で看病しているうちに親達が倒れ、そして子供が生き残った」
セシルは耳を傾けそして複雑そうな表情を浮かべている。
「ね…それって…」
セシルが口を挟もうとしたのをアラステアは押し留めるように先を口にする。
「今度は妹夫婦の所に引き取られる事になったが、姉の女の子は王宮に侍女として上がることを決め、年が足らなかったが不憫に思われたのか王宮からも認められ侍女として登城することになり、男の子だけが叔母に引き取られる事になった。だがその引き取られる日、叔母夫婦は少し田舎に住まっていたのだが治める地に帰る途中盗賊に襲われた。叔母夫婦は惨殺、男の子は行方不明になった」
淡々とアラステアは話を進めるが、セシルの顔が曇ってくる。
「幼かったが優しい姉を忘れる事がなかった男の子は大人になり王宮に侍女として上がったはずの姉にどうにか自分から会いにいける年になった」
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