第1章

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 途中行方不明になったのにどうして生き残れたのかは勿論省く。まさか暗殺者に仕上げられるために毎日殺し合いをしていたなどとセシルに話せるわけがない。  「すでに姉と引き離されてから15年。姉は28歳になっているはずだった。だが…その姉もすでに亡くなっていた」  こくりとセシルが息を飲み込むのをアラステアは見ていた。段々とセシルの顔が強張ってくる。  「だが王宮で子を生んでいた。その子も体が弱くて…」  「アラステア!」  セシルが目を潤ませてアラステアを見ていた。  「…本当は話すつもりはなかった…」  だがセシルの目がアラステアの姿を求めるのにそれは違うとアラステアは否定したかったのだ。  「お前は姉の子だ」  「違う!」  実際は従姉妹の子に当たるわけだが、アラステアにしてみたら姉の子でセシルの叔父という感覚だ。  「…いいか? だが絶対に俺の事を口にしてはいけない。いいね? セシルだけが知っていればいい事だ」  「知らない!」  セシルが首を大きく左右に降り全身で否定している。  「セシル…」  涙を零し始めたセシルの細い体を抱きしめ背中を擦ってやる。  このまま攫いたいなどと思うのは気のせいだ。腕に閉じ込めて大事に大事にしたいと思うのも。甘やかせて笑っていて欲しくて…それなのに泣かせるなんてとアラステアの心の中にも慙愧が湧く。  自分を押し留めるためにセシルに話したのだ。セシルを留めるために。  誰にも何にでも冷徹になれるはずなのに、セシルにだけがどうしても自分がいう事をきかないのだ。  「知らない…何も…僕は聞いてないっ」  セシルは全否定するかのように首を振り声を堪えて静かに涙だけをこぼしていた。  「…すまない…」  セシルが大事なのだ。何よりも。そのセシルを蹂躙したいなんて思うのはたとえ自分自身でも許せないのだ。  「セシル…」  セシルが泣き疲れて気を失うように眠ってしまうまでずっとアラステアはセシルを腕に抱き背中を擦っていた。  
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