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「セシル!」
王宮の普段は使われていない門から馬車に揺られセシルは王宮に戻った。
黒鵺に付き添われ、外套を深く被ったまま近衛の兵に案内され父の住まいである宮まで連れて行かれた。
父の住まいの宮に入るのは幼い頃以来だ。
そこで待っていたのは父王と多分宰相のエイベルだろう。セシルはやはり幼い頃以来会った事はなかったが…。
「セシル王子!」
外套を取ったセシルの姿に父王と宰相が信じられないと言った顔でセシルを見ていた。
「歩いて…体は!?」
「…疲れますけど…でも大丈夫です」
「傷も負ったと聞いたが!?」
「それももう全然痛みもないです」
別れたキリルとイリヤ王子を思い浮かべた。ついさっきまで一緒にいたのに今はもう別々の道に進んでいるのだ。
いつかきっと…キリルとイリヤ王子と再会できるように…セシルも頑張る、そう言い聞かせキリル達とは別れた。
悲しいのはアラステアとの別れだ。心が苦しくて…こんなに苦しいのに…ただ身内だからというはずはないと思う。
別れの時、アラステアはもうセシルを見なかった。馬車に乗り込むときもアラステアは姿を見せなくて…。
もう一度姿をちゃんと見たかった。触れて欲しかった。
「セシル…?」
「あ。…なんでもないです」
アラステアの事を思い視線が遠くを見ていたとはっとして目の前の父王に笑みを向けた。
「顔色がいい…別人みたいだ…」
「はい。僕も…自分の体が嘘の様に軽くて…信じられない位なんです。あんなに動けなかったのに…。ただまだ無理をしてはいけないと薬師様には言い諭されておりますが…」
「そうとも! 無理はいけない! 折角……セシル! …すまぬ…気付けなかったわしを許せ…まさか…王妃が…」
セシルを抱きしめた父王にセシルは小さく首を横に振った。
父王のせいじゃない。自分だって、誰だって気付けやしなかったんだ。
「セラウス王、これで信じていただけましたか?」
様子を見ていた黒鵺が声をかけてくると父王がセシルを離した。
「ああ! ああ! …世話になった…本当に! ザウフトのローレンツ公になんと礼をいっていいのやら…」
ローレンツ公…?
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