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確か…義母上の弟公子だったような…?
黒鵺の言っていた依頼主がローレンツ公の事か?
ちらっと黒鵺に視線を向けると黒鵺が片眉を上げて黙っていろと言わんばかりの表情をしてセシルは小さく黒鵺にだけ分かるように頷いた。
「セシルが! 父上っ!」
ばたん! と大きな扉の開く音と共にサミュエルが飛び込んできた。
「サミュエル!」
「セシル! 本当に…!?」
サミュエルの黒い瞳がセシルを真っ直ぐ見つめたと思ったらずかずかと大股で近づいてきてぎゅうぎゅうに抱きしめられた。
「セシル! 俺は信じてなかったんだ! 絶対あれはセシルじゃないって!」
偽遺体の事を言っているのだろう。
「父上! だから言ったでしょう!?」
「ああ、ああ、サミュエルの言う通りだった」
「セシル…顔色がいい。……あんなに…弱っていたのに…」
サミュエルがセシルの頬を撫でながら感慨深げに呟く。
「母上が…俺も全然気付けなくて…」
セシルはまたも首を横に振る。かえってサミュエルが知らなくてよかったと思う。
「母上はもう王宮にはいないから…セシルは安心して」
「…いないって…」
「王妃はトリノールの国境近くの離宮に蟄居を命じたのだよ」
父王が説明してくれるのをセシルは複雑な思いで聞いた。
「とにかく立ったままではセシル王子もお疲れになるでしょうから」
宰相に促されるとサミュエルが慌てたようにセシルの背を支えてくれて父の私室の長椅子まで支えてくれる。
「サミュエル…大丈夫だよ?」
「…信じられない…あんなに具合悪そうだったのに…それが全部母上の所為だったなんて…許せない」
「サミュエル…義母上はサミュエルの事を思ってした事だから」
「そんなの違う!」
真っ直ぐな性格のサミュエルにセシルはいい子だなと笑みを浮べた。ちょっとだけ年下の弟だ。…とはいっても背はセシルが見上げる位だし、体も大人と子供位に違うのだけれど。
セシルとは似てもいないサミュエルの黒い瞳と黒髪はアラステアを思い出させる。体つきもそう。セシルよりもサミュエルの方がアラステアの血縁だと言った方がすんなりくると思う位。
つい頭の中ではアラステアの事をまた思い浮かべてしまった。
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