第1章

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 「セシル…それで今まで一体どこに!?」  「すみませんがそこは追求なしでお願い致します」  横からすかさず黒鵺がサミュエルの疑問を止めてくれて助かったとせしるはほっとする。  「とにかくル・シーンに関する事は何一つ聞かない事。そこが守れない場合は…」  「分かっている!」  サミュエルが大きな声で黒鵺を止めた。  セシルはなにもかも全然知らない、分からないのにサミュエルは何か、ル・シーンに関する事で知ったらしい。後で聞いてみようとセシルは独り心の中に留めた。  ちらっと黒鵺を見ると黒鵺もセシルを見て小さく肩を竦ませる。アラステアの事などが出ないようにしてくれているんだとセシルは小さく目で黒鵺に礼を言うと黒鵺も目で笑ってくれる。  「セシル、新しい薬師をあとで宮のほうに向かわせよう。王宮と別にセシル専用の薬師だ」   「あ、はい…」  父王に言われてセシルも頷いた。キリルからちゃんと新しい薬師と相談しながらと言われながらもキリルの詳しい薬湯や処方の仕方を書いた書簡をセシルは渡されていた。  「セシルが無事に戻ってきて本当によかった。まずは疲れてはいけないだろうから今日はゆっくり休みなさい。王妃に繋がっていた者はすべてもういないはず。セシルの宮の侍女や近習も新たに用意した。皆信用の置ける者ばかりだ。だが人数は少なめにしたぞ…?」  「あ、その方が…僕はそんなに必要じゃないですし。それと父上、早めのサミュエルの立太子を」  「セシル! それはまた今度でも!」  サミュエルが声を荒げた。  「ううん。きちんと僕の意思を伝えた方がいいから。僕は王位は要りません。廃嫡にして臣下にしてください。…それと結婚はする気ありませんので」  「セシル?」  サミュエルも父王も何故今そんな事を? と不思議そうな顔をしていた。  「今だからはっきり言っておいた方がいいかな、と思って。後悔したくはないから…」  アラステアだけでいい。  たとえ血縁だと聞いた後だってセシルの心情に変化はないのだ。たとえアラステアにそんな気がないにしても…。  「しばらくの間私もセシル王子の侍従として付き従います」  黒鵺がうっすらと笑みを浮べながらそう言った。  「それは構わぬが…なにしろセシルを救ってくれた立役者だ」
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