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「計らずしても…イリヤ王子の言った通りか…?」
「そういう事だ」
「あの…?」
日中見ても真っ黒のアラステアだが顔ははっきりと見える。彫りの深い顔に目元が鋭い。そして今は柳眉を顰めていた。
「黒獅子…どうする?」
「どう……」
薬師殿がアラステアの事を黒獅子と呼んだ。それが妙にしっくりくるとセシルは思ってしまうがどうにも訳が分からない。
「あの…? どういう事…?」
セシルがおずおずと問うと赤毛でそばかすのキリルと名乗った薬師がセシルを見つめた。
「君のその症状は毒物によるものだ。誰が君の味方で誰がそうじゃないのか分からないから人払いをお願いしたんだ。急性のものではなく慢性…小さい頃からごく微量の毒物を混入されそれが体に蓄積されていったのだと思う」
「……毒…?」
誰が? 何の目的で?
どこか言われている事が自分の身に起こっている事とは思えなくてセシルは呆然としてしまう。
「……普通に考えて…王妃だろうな…」
「そうだね。我が子を王位に…と思うだろうから。それに王宮の医師や薬師も抱きかかえて…だからね」
「え…? でも! ……ずっと…優しくしてくれて…心配してくれて…」
ずっと体調も気遣って…そういえば…医師や薬師を手配してくれたのは義母上だ…。
セシルが言葉を詰まらせる。
「いいかい? よくなりたかったら口にするのは僕がいいと言ったものだけだ。食事に毒が混入されているのか、何に混入されているのか分からない。それにそれを運んでくる者、作る者が知っているかどうかも分からないから…」
薬師殿がセシルに言い聞かせるようにセシルの肩を掴みながら諭す。
「長期に渡って毒が体に沈殿しているからすぐによくなるとは言えないし完全に良くなるとも言えない。でもこれ以上悪くなる事は絶対にない。…僕を信じてくれる?」
セシルはアラステアを見て、そして同じ年位の薬師殿を見るとゆっくりと首肯した。
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