第1章

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 サミュエルが黒鵺に諭されるとチッと舌打ちしながらセシルの部屋を出て行った。  「なんとまぁ直情的な王子様だねぇ?」  黒鵺が素っ頓狂な声で笑いながら言った。  「しかもセシル王子と全然似てないね? セラウス王とセシル王子は似てるけど、あれは随分とザウフトの血が濃いらしい」  「…そうだね」  黒鵺の反応にセシルもくすりと笑った。  「小さい頃から言われてるよ?」  「だろうねぇ…」  黒鵺が苦笑を漏らしている。  「しかし。…いつもあんな感じ?」  「そうかな…。…うん…。僕は小さい頃から体が弱かったし、小さかったからね…サミュエルの方が兄のつもりなんだろうと思う」  「…兄、ねぇ……」  黒鵺が呟きセシルを見て考え込んでいる。  「どうか…?」  「ああ、いや…」  なんでもないと黒鵺はセシルに向かって手を振った。  「一応食事に毒が含まれる事はないかとか確認するのが俺の仕事になる。身の回りの世話はしないよ?」  黒鵺に言われてセシルは勿論、と頷いた。  「赤髪の薬師殿ほどじゃないけれど、一応毒物には精通してるから」  「…そうなんだ…?」  ル・シーンというが何なのか…。黒鵺に聞いたら教えてくれるのだろうか? それにキリルやアラステアの事も。  …いや、ないか…?  「あの…ル・シーンって…何?」  「ん? ああ…そうだな…金で請け負う何でも屋さん」  「……」  いたって簡単に黒鵺が答えてくれてセシルは拍子抜けした。  「今までは隠してたらしいけど。サミュエル王子にもセラウス王にも存在が知れたからね。セシル王子も一応王族だし。何か用事がある時は贔屓に。ただ金はたんまりといただくよ?」  にっと黒鵺が笑った。  「ただし人には決して名を口にしないように。折角助かった命がなくなっちゃうからね?」  聞き間違いか? と思う位に軽く黒鵺に言われたけれど、今まで聞いて来た物騒な言葉の羅列の事を思い出せば冗談ではないのだろう。  「俺は言えるのはここまでだ」  そしてぴしゃりと閉じられる。アラステアの事もキリルの事も答えるつもりはないという事なのだろう。  セシルは諦めてこくりと頷いた。  
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