第1章

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 父とサミュエルと並んで夕餉をとったのは何年ぶりだろうか…。  勿論そこに義母上の姿はなかった。  なんとなく申し訳ないような気がしてしまう。セシルがいなければきっとサミュエルは母を、父上は妻をなくすような事にはならなかったのだろうから…。  勿論セシルが生まれたのはセシルの所為ではないが…。  「セシルが気にする事はない」  家族だけの晩餐を終え、父にはゆっくり休めと言葉を貰ってサミュエルと一緒に自室に向かう途中、サミュエルがそう口にした。  王宮内だというのに周りには警護の兵が囲んでいるのはどうも落ち着かないが離宮を襲われた経緯があるために父上はセシルの周囲に常に兵を配置したのだ。  「別に俺は王位が欲しいと思った事はない。でも母上はずっと小さい頃から俺に王位に、…とは言っていた」  「うん。それが普通だと思う。僕はたまたま先に産まれたというだけで、王の資質もないし」  「そんな事はないと思う。セシルは人を気遣えるから…俺はどうしても暴走する所があるし」  サミュエルが大きな体を恥かしそうに縮めながらそんな事を言い、セシルは可愛いなとくすりと笑ってしまった。  「そう自分で分かっているなら大丈夫でしょう?サミュエルは小さい頃から堂々として立派だったよ?僕は大勢の前にでたらおどおどしちゃうし」  「青くなってセシルが震えてるから俺がちゃんとしなきゃ、って思ってたんだよな。俺がセシルを守らなきゃ! って」  サミュエルが苦笑を漏らす。  弟とはいっても同じ年で、小さい頃は体は弱くとも式典なんかには一緒に出た事もあったのだ。  それを見ていて両親ともに王族の血が流れるサミュエルと自分はやはり違うとサミュエルが眩しかったものだ。  「段々と弱っていくセシルに…何もしてやれなくて…歯噛みしてたのに…それがまさか自分の母親の所為だったなんて…」  ぎりとサミュエルが眉を顰めたのを見てセシルはポンとサミュエルの背を叩いた。  「今はこうして起き上がれるようになったし平気」  「……セシルは心が広い。俺だったらもし自分がそんな目にあったら絶対に許さない」
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