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王宮の中は広いが、王族の住まいは東側の一角で衛兵の数は多い。それに今はさらに周りにも張り付いている状態だが、サミュエルは一向にそれには無頓着だ。セシルはどうしても人の目が気になってしまうのに…。
そんな所もやっぱり自分とは違うなと冷静に思ってしまう。
セシルの部屋に着くと疲れただろうとサミュエルがすぐにセシルを寝台に押し込み、セシルも逆らう事なく横になった。
そして薬湯も口にする。
とにかく薬湯を飲み体の毒を流すのが一番だ。
「セシル…疲れた?」
「うん…少しはね。でも平気」
サミュエルがセシルの背を支えてくれたり、水差しを取ってくれたりと甲斐甲斐しいのに笑ってしまう。
「大丈夫だってば。なんか僕の方がずっと小さな子みたいだろう?」
「セシルは小さいし、可愛いし」
当然だといわんばかりのサミュエルにまた笑ってしまう。
笑いは出る。けれど心の中にはずっと寂しさが巣食っている。
「…セシル…」
サミュエルが寝台の脇の椅子に座りながらじっとセシルを凝視していた。
「何?」
「……何かあった?」
「うん? 何かって何?」
「知らない。…知らないけど…」
ぎり、とサミュエルがまた眉間に皺を寄せた。
「どこか…遠くを見てる時がある」
…アラステアの事を想っている時だろうか? そう思ってセシルはうん、と小さく頷きサミュエルの顔を見た。
黒い瞳に黒髪。アラステアと一緒なのにアラステアじゃない。
「……セシル…誰を見ている?」
え…? とセシルは首を傾げた。
苛立ったサミュエルの声にセシルはどうしたのだろうと手を伸ばしサミュエルに触れようとしたらその手を払われた。
「セシル! 俺を見ろ」
「見てるけど…?」
何を言っているのかとセシルはどきりとした。
「違う。今セシルが見てたのは別な奴だ」
「別な人…って誰の事? ここにはサミュエルしかいないのに」
セシルはあくまでシラをきる。自分でだってサミュエルではなくアラステアの事を考えていたと分かっているのに。
サミュエルはますます眉間の皺を深くして怖い顔でセシルを凝視した。
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