第1章

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青白い顔でセシルはベッドに半身を起こし背を大きなクッションにもたれながら本を読んでいた。  コン、と咳をするとベッド脇についてくれていた侍女が大丈夫ですかと慌てて背中を擦ってくれる。  「セシル様横になりましょうね」  本を取り上げられて横にさせられ布団を被せられる。  母も結婚してから身体を壊して弱くなり、そんな母から生まれたからかセシルもずっと身体が丈夫ではなかった。  「王妃様からいただいた薬湯をお飲みしましょうね」  「…うん」  侍女が席を外し、少ししてから温かい薬湯を作ってきてくれてセシルはおいしくないそれを少しずつ嚥下して飲み干した。  「…おいしい薬湯ってないのかしら…?」  苦味の強い薬湯に顔を顰めながらつい言葉を零してしまうと侍女にくすくすと笑われた。  毎日口にしてる薬湯なのにどうしても口に慣れる事はない。  「お口直しに金平糖です。さ、それをお口にしながら少しお休みくださいね」  侍女に金平糖を数粒貰って口に放り、口の中に残っていた苦味が消えるのを待つ。  仄かな甘みがあっという間に口の中で溶けていく。  毎日ほとんど横になって過ごす日々。  本当であれば王子としての役割を果たさなくてはいけないのに何も出来ない自分。ほんの二ヶ月しか違わない弟は父王の執政の手伝いをしているというのに…。  一応セシルが先に生まれたので第一王子になるが、セシルの母は王妃付きの侍女で身分は低く正当な次代王は王妃様の子である弟が継ぐべきとセシルも思う。  小さい頃から身体も弱くて活発に動くような子でもないセシルに比べ、弟は快活で誰にでも愛されるような王子だった。  身体が弱かった母はセシルを産んでからさらに体調を悪くしてセシルが物心つくころには亡くなってしまった。そんなセシルを王妃様は疎む事もなく母のように弟と同じように接してくれてセシルは王妃様に感謝していた。  普通だったら自分付きの侍女が先に王の子を生んだら疎まれるだろうに…。慈悲深い王妃様はいつもセシルを気にしてくれて薬湯も切らさないように届けてくれる。  自分なんかいなくとも…とセシルは自分で思うのだが…。  セシルは首を廻らせ大きな窓から見える空を眺めた。
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