第1章

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 滅多に外にも出ないセシルは自分の手を伸ばして眺めた。青白い手。骨が浮き出るような痩せた手だ。手だけじゃなくてそれは顔も身体も同じだ。  だからセシルは鏡が嫌いだ。  そこに映る自分の姿が同じ年の弟と違いすぎて。  同じ年でもうすぐ17歳になるというのにセシルの貧弱な弱りきった体と弟のもう大人の男といっていいような体格の差が違いすぎるのだ。  誰ももう第一王子の存在なんか忘れている。  年数が経つほどに起きられなくなってくる日が増え、今は王宮を離れて療養の為に緑の多い小さな離宮に数名の世話係と共に住まっていた。  その手配をしてくれたのも王妃様だった。  セシルの体調が思わしくなく心配をしてくれたのだ。  一緒に弟も行く、と駄々を捏ねていたが遊びに行くのではなく病をよくする為、と王妃に諭されしぶしぶ諦めていたが…。  当然だろう。弟はもう執政の勉強をはじめているのだ。  ではセシルは何の為に存在しているのだろう?  王族としての役割どころか一人で自由に歩く事すら出来ない身体だ。別に王位に就きたいとかそんな事は思った事もない。そこは正妃の子である弟が王になるべきだろうし、こんなセシルとは違って何にでも意欲的で活発で人の中心にいるような弟がいるのだから国は安泰だろう。その少しでも手助けができるなら…それすらもままならない自分の弱りきった体。  変わり映えのないベッドに横になっているだけの日々。  そういえば…しばらく黒衣の人が来てないな…。  唯一のセシルの楽しみだ。  誰にも内緒の存在。  年に数回姿を見せる人。王宮の奥だろうが関係なくセシルが一人の時を見計らってふらりと現れる人。  一体何者なのか…名も正体も問うた事もなく、ただセシルの無事を確認にくるだけの存在。  会いたいな…とセシルは窓から空を眺めた。いつも訪れるのは真夜中で寝静まってから。だからその存在をセシル以外は誰も知らない不思議な人。  療養に離宮に来てしまったからここに現れる事はないだろうけれど…とセシルはがっくりしてしまう。  何をしている人なのか…闇夜の風のような人だ。
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