第1章

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 薄紫色の木槿(むくげ)が通りがかった商家の庭先に花を咲かせているのが目に入った。  そういえばセシルの具合はどうだろうか…。  木槿の花の色がセシルの瞳の色と似ている…。  アラステアは少し離れた前を馬に揺られながらゆっくりと道を進む二人連れに目を向けながらセシルの事を思い出した。  しばらく顔を見ていないが体調に変わりはないだろうか…。  そういえば赤毛の薬師殿は優秀な薬師だったな。  王子であるセシルには優秀な医師や薬師がついているとは思うが…。  「おい」  アラステアは馬の手綱を揺らし二人連れから離れていた距離を縮めた。  丁度セラウス国に入った所で都合もいい。  少々寄り道する位は監視役の自分が報告しなければいいだけだ。  「なんなのお前? ついてこなくともちゃんとここから南の大陸に渡るつもりだ」  白金の髪の王子が疎ましそうにアラステアを見ながら顔を顰めそう口にした。  そんなもう王子ではなくなったウルファの王子は無視する。  「薬師殿、体の弱い子がいるのだが…見てもらえないか?」  「おい? 何言ってる?」  「……体の弱い子?」  赤毛の薬師殿がアラステアに視線を向けた。  「キリル!?」  「イリヤ王子少し黙ってて。俺は黒獅子に借りがあるから返せるなら返しておきたい」  見た目は子供っぽい赤髪の薬師殿はきっぱりと物事を言う。そこが面白くてついアラステアも薬師殿には好意的になってしまったのだがそれが幸いしたらしい。  「勿論多少寄り道しても報告はしないでおく」  薬師殿がこくりと頷いた。  「いいよ」  「キリル!」  「寄り道といってもその子はこのセラウスにいるから通り道に寄る位だ」  白金の王子は無視しアラステアは薬師殿に向かって説明する。  「…症状は?」  ウルファの王子がぶつぶつと文句を言っているが薬師殿も無視するらしい。  アストゥールを抜け南の地セラウスに今は入ったばかり。ここからさらに南下しこの二人連れは南の大陸に渡るつもりなのだ。それが薬師殿がル・シーンから命を狙われない条件だ。そしてアラステアはイリヤ王子に後遺症が残る程度の依頼を受けていたためにたまたま居合わせ、そしてこの二人が本当に南の大陸に渡るまでを見届ける監視役にそのまま抜擢されたのだった。
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