第1章

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 ル・シーンを抜けた者の命を取らないなど有り得ない事。  ただそれは薬師殿は刺客を生業としていたわけではなく薬師だったという事が大きいのだろう。…でなくば、いくらウルファ王の口添えであったとしても赦される事はなかったはずだ。  この二人が大陸に渡ると言って渡らない場合や、途中に不用意な発言などがないかなど、アラステアの判断でこの二人を闇に屠っていいことになっている。  そんなバカな事をする二人じゃないのはアラステアも分かっているので、今はただ二人の旅に後ろからついていっているだけの感じになっていたのだが。  「俺も頻繁に会っているわけでもないからよくは知らない…今は療養の為に都から離れているらしいが…」  「…そんなに悪いの?」  「イリヤ王子は聞いた事があるか? セラウスの第一王子だ」  「ん? ………ああ…聞いた事あるな…。確か生まれつき体が病弱で臥せっているとか」  「そうだ」  「…王子なら俺でなくとも立派な薬師や医師がいるんじゃ?」  「そうだろうとは思うが…一応、な。俺は赤髪の薬師殿は信用してる」  「……そりゃどうも」  実際ル・シーンの薬草を扱う中でもこの坊やはかなり特別だったらしいのは知っている。今までの歴代薬師の中でも突出していると評価だった。それは王族に仕える薬師よりもずっと腕は確かだという事だ。それ位ル・シーンは特別だ。何事にもその道の専門者を集めるル・シーンの中でも最高評価を受けているのだから。  「あ~…思い出した。確かセラウスの第一王子って正嫡の王子じゃなかったな?」   「そうだ」  「そしてすぐ王妃が第二王子を出産してる…な? ……その王妃様に邪魔扱いされて毒でも盛られてるんじゃねぇの?」  「いや…王妃様はよくしてくれている…と聞いたが」  「よく、ねぇ……」  イリヤ王子は何か言いたそうな顔をしたがそれ以上は言わなかった。自分は兄にル・シーンに刺客を依頼されたくらいだから含みはかなりあるだろう。  しかし薬師殿もイリヤ王子もそれ以上余計な事をアラステアに尋ねる事はなかった。   普通だったらどんな関係? とでも聞きたい所だろうが…。  勿論聞かれたとしてもアラステアは応える気もない。
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