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「俺ってやっぱり有能だよな…黒獅子に恩売るなんてありえねぇ~! その内仕事で返してもらおうかな」
「………分かった。俺の出来る範囲ならな」
「報酬なしだぞ?」
「それで今回の件を忘れてくれるなら」
「よし。成立だ」
黒鵺が喜んだ声を出している。
…どうやら二人は仕事仲間…なのだろうか? どちらも黒鵺とか黒獅子とか呼ばれているし…それにバクスター男爵の事も元黒蠍って言ってた。
…という事はキリルも? でもキリルの事は誰もそんな風には呼んでいない。
やっぱりセシルには分からない。
分かっているのはこうしていられるのがあと二日だけという事だ。
「そうそう、南の大陸に出る船が五日後にあるぞ」
黒鵺がキリル達に声をかけている。
「ここから三日で最南端の港町までいくのは結構な強行だとは思うけど」
「いや、それに乗ろう、ね」
「ああ」
キリルとイリヤ王子が顔を合わせながら頷き合っている。二人ともあと二日だけ…?
「お前達だけ先に出てもいいんじゃ?」
「いや。セシル王子と一緒に出るよ」
旅程がきつくなるだろうにキリルとイリヤ王子がそう言ってくれたのにセシルはほっとした。本当なら二人とも別れたくはない。
寂しいな…とセシルは鼻がツンとしてきそうだ。それでも二人にはかえってセシルのせいで時間をとらせてしまったのだから笑って見送らなければ。監視とか言ってたし、国も捨ててと色々な事情があるらしい二人なのにわざわざセシルの為に付き合ってくれていたのだ。
本当はいいから先に出て、とセシルが言えばいいのだろうが、そうして欲しくなくてセシルは黙ってしまう。
ずるいんだ。もしかしたら南の大陸には行かない、なんて言わないだろうか、アラステアも傍にいると言ってくれないだろうかとセシルは期待してしまうのだ。
セシル以外は皆自分のすべき道を進んでいるのでありえない。わかってはいるのだが…。じゃあセシルは何をしたらいいのだろう…?
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