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そうこうと、郁哉が戸惑い迷走している最中も、何者かの手が緩んだわけではない。それどころか、益々増している。
今は考えるより、まずはこの手をなんとかせねば。
「くっ、がはっ」
郁哉は、首に伸びた両手を掴み、取り除こうとする。
が、外せない。体重が加わる上からの力は強固で、退けるのを憚れてしまう。
まずい。このままでは・・・。
「がっ、や、やめろ! は、離せ! 」
自分の置かれた窮地の状況に、ようやく気づいた郁哉は、全身踊らせもがく。
併せるように、何者かのシルエットも左右に揺らぐが、振り落とすには至らない。無駄に体力を消耗するだけ。
ただ、動いた事で、零れる明かりの直線上にズレてくれた。この何者かの正体を捉える事が出来たのだ。
とは言え、はっきり見えるわけではない。なんとなく程度のレベル。
それでも、それが自分のよく知った人間ならば、充分に判別がつく。
嫌でも、郁哉にはその正体がわかってしまった。
そう。この首を絞めつける何者かは、郁哉のよく知る人物。知るもなにも、たった一人の自分の身内だったのだ。
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