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朝が来て、セイレーンは空へ飛び立とうと、大きな翼を広げ、羽ばたき始める。すると、鋭い音が空気を裂き、同時に激しい痛みがセイレーンの体を突き抜けた。
セイレーンはあまりの痛さに小さな海へ落下した。落下する途中で、煙が立ち上る筒を持った年老いた男と、その側にいる小さな男の子の姿が見えた。
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「セイレーンが小さな海、と呼んだ物は湖だったのじゃ。この村の湖に落ちたセイレーンは魚の尾を持って、今でも翼を奪った人間を恨んで湖へ引きずり込むと言う」
子供達は皆息を飲み、恐怖で動く事を忘れてしまったかのように固まった。
「ほれ、話は終わりじゃ。早く帰らぬと、セイレーンに引きずり込まれるぞ」
悲鳴を上げながら子供達が逃げ出した。
何故なら、語り部の老人の背後にあるのは話に出た湖だからだ。語り部は満足そうに頷き、髭を梳く。
「さて、ワシもそろそろ……」
腰を上げた時、背後から水が跳ねた音がした。
反射的に振り返る。湖の水面に大きな波紋が、小さな波を作って岸へ押し寄せているのが見えただけだった。
きっと大きな魚が虫を獲ろうと跳ねたのだろう。語り部は湖から離れて行った。
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