第1章

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彼とうまくいかなくなったのはいつからだろう。 残業の後、彼の部屋に重い足取りで向かいながら星のない夜空を見上げる。 沢山の街頭のせいでいつ見ても明るい空は、本当の姿を隠しているみたいだ。 わたしもまた、彼の前ではほんとうの姿を見せていなかった。見せられなくなっていった。彼の理想や、沢山のこだわりに惚れ込んで、彼の世界をもっと知りたいと思った気持ちは今も変わらない。 価値観の違い。 簡単に言えば、そうなんだろう。 なんとなく、意味もなく、道すがらの雑貨屋に寄りながらぐるぐると言い訳を探してい た。 彼には彼の世界があって、でも、勿論わたしにだって譲れない世界もあって。 でも嫌われるのが怖くて、ぶつかって傷つくのが怖くて、曖昧な自分で彼といるのが楽になった。 もっと、いろいろ言えてたら良かったのかな。 もっと、ちゃんと向き合えれば良かったのかな。 ふいに涙が頬を伝う。 いけない。 笑顔で終わりにするんだった。 こんな、曖昧な自分にもう、疲れたんだ。 泣いてる顔を髪で隠しながら雑貨屋を出た。 あと数分もすれば彼の部屋。 3階の居室には灯りが点いてる。 -珍しい、いつも居ないのに。 寂しがり屋でわざと多忙にしているみたいな彼はいつも部屋にいなかった。合鍵で開けて待つのはいつもわたしのほう。 なんとなく、エレベーターに乗らず、階段に腰掛ける。 なんて言おう。何を言おう。 何を言っても傷つくのはわたしだけ。 それも、もう解ってた。
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