第1章

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「もう来ないでって何度言えばわかるの?」 彼女の、疲れたような憐れむような顔にももう慣れてしまった。 惰性でも、憐憫でも、このまま会い続けることができればそれでいいと思ってた。 前の彼、忘れられない彼のことを思う彼女に、いつしか自分を重ねてたのかもしれない。 何度目かのドライブ。 彼女は唐突に言った。 「また、人を好きになれるかもしれないの」 それは、衝撃だった。 前の彼と元サヤに戻るわけではなく、新しく人を好きになりそうなこと。 そして、その恋がうまくいきそうだから、本当に今夜で最後にしてほしいこと。 窓の外を見ながら彼女は淡々と話す。 嘘ではなさそうだ。 嘘のつけない彼女特有の話ぶりで、新しく好きになりそうな相手の見当もついてしまったから。 今度こそ、僕の恋は終わったのだった。 車を降りるとき、彼女は、 「じゃあね、もう来ないでね。今までありがとう、でも、ごめんね」 と、寂しげに笑った。 彼女には始まりでも、僕には終わりだった。 ありがとうなんてまだ言えない。 そうして、彼女は帰っていった。 彼女が自分の部屋のドアの鍵を閉める音で現実に引き戻される。 さて、僕は、これからどうしようか。
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