第1章

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あの恋をどう表現すればいいのか。 僕はあまり語彙を持たないが、彼女の言葉を借りれば一方通行。どこまでいっても平行線のような、そんな恋をしたことがある。 付き合ったばかりの頃の幸せな思い出が僕を突き動かす。 わかってる。 もう彼女には振られたのだし、彼女には僕への気持ちなんてもう同情や憐れみのようなものでしかないことも。 僕だけに向けられたはにかんだ笑顔や、好きだと言ってくれるまっすぐな眼差し。時折寂しそうに宙を仰ぐ顔。 まだ、忘れられない。 そんなに急に終わりにできない。 格好悪くてもいい、蔑まれても、罵声を吐かれても、それでも僕は彼女に会いたくて会いたくて会いたくて、休日のたびに彼女の家へ向かった。 決して歓迎されていないことも知りながら。 すすり泣くような苦しい思いが、彼女への執着に変わる。 見捨てないでくれ。 あんなに、愛しあったじゃないか。 もっとも、彼女に言わせれば 「誰でも良かったの」 という事になるし、愛しあったと思っていたのは僕だけで、彼女は最初からこう言っていた。 「前の彼が忘れられない」 それなら、僕が忘れさせてあげようと思ったその気持ちは今も変わらないのに。
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