桜流し

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「桜流し」 ただ単に正しい言葉を忘れてしまっただけでした。 さようならば仕方がない、とかそんな風に簡単に諦めちゃって、痛いなぁ、とか、辛いなぁ、とか、きっと全部惰性だったのだと思う。それを君も僕も知っていたのだと思う。 だからきっとこの涙も無駄なもの。 今日も惰性で思い出すあの日のことを、捨て去りたかったんだ、って言ったら、君は幻滅するだろう。いやきっとしない。ただ、きっと、静かに笑って、泣くんでしょう? その涙を僕が見ることもなく。 愛しいものはきちんと大切にしましょうね、って独りで呟いた。あまりにも今更すぎる言葉だった。古傷撫でて、ちょっと笑えばほら、自嘲の出来上がり。面白くないね。 雨が降ったから、桜の心配をする。もうとっくに散り去ったような気がする。そうじゃない気もする。そうか解りやしないのか、と不意に納得する。花を見に行くことなんて、もう随分としていなかったから、だ。 そうだ正しい言葉をいい加減に思い出さなくては。 泣かないでね  笑わないでね   傷つかないでね    それが残酷だってことは知ってる 傘を持って歩き出そうか 悲しみなど、あの日に置いてきたはずだから 桜を散らすとしても、冷たい雨より軽やかな風の方がいいとは知ってる。知ってるけれど、きっと僕には冷たい雫が似合うということは知ってた。それがあの日の僕への言い訳だってことも知ってた。 そうか、あの日は遠のいていたのか。
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