0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、ああ。よろしく」
と、俺はそんなレノラに目を奪われていたのだが、我に戻ってみれば一つの疑問点が浮かび上がっていた。
「あれ。俺、名乗ったっけ……」
レノラに出会った時点では君と呼ばれていたものだから、唐突に自然な流れで名を挙げられると薄気味悪いのだ。いつどうやって知ったのだろうか、と。
しかし、レノラはそんな俺を一蹴するかのように、得意げに鼻で笑ったのだった。無知な俺を嘲笑ったのかもしれない。
「言ったじゃないか、幸せな世界だって。願えば叶う……そんな誰しもが魔法使いになれるような場所なんだ、ここは」
足を進めながら、レノラはちらと此方へ目を配らせる。「分かったかい」と、俺の理解度を確かめるように。
それにしても、願えば叶う、か。俺の知る現実では考えられないとんでもシステムではあるが、納得してしまう。レノラが俺の名前を知りたいと願った。だから、俺の名前を知っている。俺は今まさに、レノラに世界を見せられたのだ。
「なるほど。しっかし、それでよく成り立っているな」
人間は皆、各々思い描く理想というものがある。それら全てが叶えられようものなら、世界が保つはずがない。一人にとっての幸せが、一人にとっての幸せとは限らない。不幸であったりもするはず。であるからにして、システムは理解できてもレノラの言う幸せは理解できない。
最初のコメントを投稿しよう!