ルームシェアの君へ

6/13
79人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
ルームシェアを始めてすぐ、彼女が苦労してきた事と、男を駄目にする原因が分かった。 毎日きちんとすすんで家事をこなし、料理は節約しながらも手作りし、私の欲しいときに珈琲を差し出し、聞かなくとも外出時にはどこに行くのか何時に帰るのか伝えていく。 朝食のめざしと味噌汁、卵焼きを食べながら、目の前の甲斐甲斐しい杏菜に、憐れみの視線を向けた。 「な、なんですか?その顔は。」 あ、露骨に顔に出しすぎたな。 「いや、毎朝朝食を食べるなんて、初めてだったから感心してたんだよ。」 半分本当。 朝食は食べない派の自分には、新鮮だった。 「そうなんですか?量多いなら、減らしますか?」 「いや、ちょうどいいよ。」 食べ終わり、食器を洗おうとすると、やはり今回も止められた。 「私がします!」 「いや、これぐらいするよ。」 「食費とか出してもらってますし、家事ぐらいはしたいんです。知子さんはしないでください。」 気にしなくてもいいのに、と思うが、杏菜はこういう所は頑固で譲らない。 仕事先も紹介したから、恩も感じているのだろう。 おかげで私は仕事して、ご飯を食べて、風呂に入って、寝るだけでいいという、亭主関白気取りをさせてもらっている。 いい男に巡り会えば、杏菜はとても良い妻になるだろう。が、逆に言えばくず男に捕まるとただの家政婦や母親のようにされ、利用される。 ルームシェアを始めて1ヶ月で、私は杏菜の父親のように彼女を心配しはじめていた。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!