ルームシェアの君へ

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杏菜は、久しぶりの大人の女性らしいドレスに緊張していた。 「だ、大丈夫かな。浮いてないかな。」 ドキマギしながら約束の店前で待っていると、知子がやってきた。シャツにベストとシンプルな服装ながら、長身な彼女にはよく似合っている。 「おー!やっぱり可愛い。似合ってるよ。」 その褒め言葉に、胸はドキドキしてうるさかった。 「皆もう来てるよ。おいで。」 慣れないヒールに気遣ってか、手を差し出された。こういうさりげない優しさが、毎度毎度ときめかされる。 もっとも知子さんは気付いてないけど。 もどかしい片思いに思わず転ぶふりをして抱き付いてしまおうかとも考えたが、結局行動にも移せなかった。 こういう時、肉食女子とやらが羨ましくなる。 「お待たせー。」 「お!やっときたな!」 すると、店に入って奥の部屋に大きなソファに3人の男性が笑顔でこちらに手を振っていた。 知子さん、何故友人が全員男性なんですか? すっかりビアンの彼女の友人なら女性だと思い込んでいた。 必死に作り笑顔で挨拶すれば、全員が立派なスキル持ちで、紳士的な男性だった。 「杏菜の料理、美味しいんだよー。家庭的で。」 「へー。料理上手な子っていいよねー。」 そしてこの合コン的な雰囲気。すすめられ方。 経験は浅いものの、これがまさに合コンで自分に紹介されているものだと言うことは、すぐに理解できた。 「杏菜ちゃんは、海と山ならどっちが好き?」 「え、と、どちらもそんなには・・。」 「じゃ、ドライブとかは?」 「すぐ乗り物酔いしちゃうので・・。」 乗り気じゃない返事をしても、笑顔で話題をだしてくれる男性陣。 普段の自分なら、もう少しは楽しめてこのお姫様のような状態を堪能出来たかもしれない。 が、今はどうしようもなく辛かった。 本当に好きな人から恋人探しを提供されて。
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