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「トオミちゃん!」
喜ぶ田中。
「…」
喜ばないトオミ。
射抜くような視線を田中へ投げかけるだけ。
それでも田中は嬉しそうにトオミを自分の隣に座らせた。
「トオミちゃんに会いに来たよ」
「…」
トオミは口を開かない。
「トオミちゃん、何飲む? 何でも頼んでいいから」
「…」
普通客の台詞じゃないと思うが、トオミがあまりに無口なため、トオミが付くと客の方が気を使って饒舌になる。
口がきけない訳じゃない。
客が懐から財布を取り出そうとすれば、「ゆっくりだ! ゆっくり出してもらおう!…」と何故か牽制する。
さらに金を払おうとする客に「代金はスイス銀行へ振り込んでくれ」と言うので、その都度マツコママから「現金で貰って!」と怒られている。
これはお約束のやり取りだから客も笑ってみている。
「どうする? 水割りにする? この前ボトルを入れたからそれにしようか」
「赤ワイン」
トオミはその日の気分なのか赤ワインを希望した。
「ママ、赤ワイン!」
田中がママにオーダー。
それもホステスの仕事のはずだが、トオミがあまりに無口なので客が先に気を利かせてしまう。
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