第1章

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「トオミちゃん!」 喜ぶ田中。 「…」 喜ばないトオミ。 射抜くような視線を田中へ投げかけるだけ。 それでも田中は嬉しそうにトオミを自分の隣に座らせた。 「トオミちゃんに会いに来たよ」 「…」 トオミは口を開かない。 「トオミちゃん、何飲む? 何でも頼んでいいから」 「…」 普通客の台詞じゃないと思うが、トオミがあまりに無口なため、トオミが付くと客の方が気を使って饒舌になる。 口がきけない訳じゃない。 客が懐から財布を取り出そうとすれば、「ゆっくりだ! ゆっくり出してもらおう!…」と何故か牽制する。 さらに金を払おうとする客に「代金はスイス銀行へ振り込んでくれ」と言うので、その都度マツコママから「現金で貰って!」と怒られている。 これはお約束のやり取りだから客も笑ってみている。 「どうする? 水割りにする? この前ボトルを入れたからそれにしようか」 「赤ワイン」 トオミはその日の気分なのか赤ワインを希望した。 「ママ、赤ワイン!」 田中がママにオーダー。 それもホステスの仕事のはずだが、トオミがあまりに無口なので客が先に気を利かせてしまう。
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