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「おい、いい加減鬼ごっこは終わりにしてくれねぇか」
人目のつかない、新宿のとある路地裏で、俺はドスを聞かせた声で逃走者に向かって静かに威圧した。
「ま、待ってくれ!らら、来月には必ず…」
「てめぇ、そういって先月も返してねぇの忘れてねぇよな?あ?」
悪人面するのも疲れるんだ、そろそろ折れてくれよ。
こっちだって忙しいんだ。本音を飲み込みながら、額には青筋を浮かべる。
器用なことができるようになったもんだ。とふとそんなことを考えた。
「…ッ」
目の前では、自分よりはるかに年上の男が、俺におびえている。
こうはなりたくないもんだな、などと考えながら、俺は如何にしてこいつから金をむしり取るか、それだけを考えてた。
『この世界』に来てから、早くも八年が経つ。
弱者から金をむしり取る。最初こそ同情の気持ちが湧き上がってきたものの、今ではそんなこともすっかりなくなり、日々作業的に金の回収にまわっていた。
この街には、様々な人間がいる、パチンコで日々のうっ憤を晴らそうとし、一文無しになり金を借りに来る者。
周りに合わせ、金をかけて表面だけの虚勢を張り、生きるのに困り金を借りに来る者、キャバクラで嬢に執心し、妻にばれない様に金を借りに来る者…様々だ。
『俺はあんな風にはならないぞ』と、まだガキだったころ、その手のマンガだか映画だかを見てそう思ったが、まさか自分が『狩る』側に回るなんて…今では部下を持つまでになったが、今でも信じられない。
『まっとうに生き、老後は夫婦で世界旅行』なんて妄想は、とっくの昔に潰えた。
今でも、もしかしたら…と考えることはあるが、もう遅すぎる。それほどまでに、俺は『この世界』では有名人だった。
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