孤独の泪

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僕が目覚めて、さらに五年の月日が流れた。 あれから、再び高校に入学し直し、大学へ進み、就職した僕。 みんなから五年遅れてしまったけど、僕は普通の生活をおくれるようになった。 そんなある年、日照りが続き、ダムが干上がった。 ひょっとしたら、そんな淡い期待を持ってダムを訪れてみれば、やはり、故郷の街がダム底から現れていた。 でも、それすら記憶にある街とは違っていて。 ダムの底で荒廃していた街は、僕の知っている街ではなくて。 期待を裏切られた僕は、代替え地に出来た街に戻った。 街の外れでは、御神石を囲んで雨乞いをしていた。 そのとき、「アッ」と、思わず声が出た。 ダムに沈む前と寸分変わらぬ姿形で人を見下す大きな石。 見付けると同時に、境内でムシを捕まえたり、かくれんぼをしたり、遊んだ記憶が甦る。 聞けば、ダムに沈むところを、神主の計らいで代替え地に移設されたという。 昔と変わらぬ存在を前に、僕は涙した。 僕の思い出はここにあった。 僕の知っている物はここにあった。 変わっていく世界の中で、変わらない存在があった。 物言わぬ御神石は、「ようやく気づいたか」と言わんばかりに、大きく、尊大だった。 そんな御神石を前に、僕は独り涙した。
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