第3話

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「お電話頂いた、佐藤さんですね?」 時間外診療入り口から、院内に入ると すぐに芹南の診療が始まった。 痛みの時間が長くなったのか、大きな声で泣いてばかりで、 若い女の医師と看護師が、芹南をおさえつけるようにして裸にしている。 「ママ、ママ」 もともと人見知りの娘、 見たことない医療関係者の真剣な顔に、かなりビビっていて、 ベッドの柵につかまり立ち、 私に手を差し出してきた。 「芹南……」 いつもの “ 抱っこ ” 要請のポーズだ。 「お母さん、今からバリウムを流し込んで、腸を正常位置に戻します。 お子さんを興奮させないために、申し訳ありませんが、外でお待ちいただけますか?」 その若い女の医師は、長い髪を後ろに束ねて 顔は、かなりきつめの人だった。 「わ、わかりました」 彼女の焦った早口が、 治療の難しさを物語っていて、 ガシャン! と重い音をたてて閉まったドアが、 私の心臓にも、ドン!と、不安を上乗せしてきてきた。 「…………」 ……シン…… 時間外の病院の廊下…… そこに、処置室からの、娘の泣き叫ぶ声が響き渡り、 耳を塞ぎたくなった。 「ごめんごめんごめん……芹南……ゴメン」 もっと早く病院に来ていれば…… 後悔と、罪悪感と、 そして、孤独感と____ 「………………優…………」 携帯電話にたくさん残った着信履歴。 だけど、 頼るわけにはいかない。 この時ほど、 いろんなものを分かち合える家族が欲しいと、 思ったことはなかった。
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