第3話-2

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「佐藤?」 旧姓の名字を、現在 呼び捨てで口にするのは、会社の上司位しかいない。 「…………山岡工場長……」 「なんだ?子供入院したのか?」 同じく煙草を吸い出した山岡さん、 コックコートを脱いだら、とてもお洒落な私服のおにいさんだ。 「いえ、今日は母が……」 長目の茶髪を後ろで束ねて、大きめのティシャツとパンツが見えそうなズボンは、まるで二十代みたい。 「かぁちゃんが、どうした?」 「心臓発作で救急搬送してきてもらいました」 会社の外で会ったのは初めてかもしれない。 「……心臓か……大変だな。 年をとると、心臓とか癌とか、脳疾患とか多くなるなぁ」 フウ 、と煙をはいて建物と建物の間の空を見上げた山岡さん。 「工場長は、今日はお見舞い?」 「治療だよ」「治療?」 煙草を灰皿に押し付けると、その手を腰に当てて見せた。 「前、ヘルニアで動けなくなった時、 俺デカイから、家族誰も俺を運べなくて、大袈裟に救急車呼びやがってよ そんときから、ここの整形外科にお世話になってるんだよ」 「確かに、山岡さんを抱えるのは大変そうですもんねぇ」 180 は軽くある身長で、ガタイのいい筋肉質。 以前、抱き締められた時に その硬さは実感していた。 「お前、付き添うのか?てか、子供は?保育園?」 「いえ、付き添いは いらないと言われました、一週間発作が起きなければ退院です」 と言っても、 1日に一回は顔を出さなきゃ行けないから、残業はなるべくしたくないな。 無職の期間があってはならない私。 仕事探しと両立も難しくなりそうだ。 「そっか、子供お迎え何時だ?」 「えっ?」 「飯でもどぉだ?」 最近、 すっかり忘れていた。 この人にデートに誘われていた時もあったことを。
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