第3話-2-2

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言われてみると、 男性の髪にしては長い。 「お前、作業中は髪の毛どうしてるんだ?」 社長が、 険しい顔で、肩より長めの私の髪を見つめている。 「一つにまとめて、帽子の中に入れ込んでます。」 嘘じゃない。 「じゃ、何で生地の中に入っちまうんだ?!」 「………………」 こんなクレームは初めてらしく、社長は怒りを隠せない、いや 怒られて当然の事なんだけど。 「これだけじゃ、ないんですよね?髪の毛」 山岡工場長は、そのマドレーヌから出てきた髪を、両手で持って私の髪と比べた。 「そうだ。十数個あったらしい」 社長は顔色が悪くなり、 フウ、と一息つくと、椅子に座って私と工場長を見比べる。 「もしかしたら、他の商品も返品されるかもしれない。 これが噂になったら、ロイヤルホテルとの契約もパアになる」 そして、お叱りはどこかへ 行ってしまい 少し頼るような目で山岡工場長の腰付近を、ポンポンと叩いた。 「山岡、改善策を 明日朝礼の前に言うんだぞ、そして、客先にまずお前が出向け」 「……はい…………申し訳ありませんでした」 珍しく おとなしい工場長は、 返品された商品を箱に戻し入れて、 それ以上何も言わずに、一礼して事務所を出た。 「山岡さん、ごめんなさい」 箱を抱えて、外のごみ焼き場に早歩きで向かう工場長。 その顔は、 怖かった。 「お前の髪の毛じゃねぇよ」
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