第3話-2-2

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卵黄と他材料を入れたミキサー。 これを機械にセッティングするのが、かなり難儀だったりする。 とにかく重い。 周りの男性を見ても、皆忙しそうに作業をしていて、元々は人見知りの私、 「手伝って」と言うことができない。 ゴツ! うお、 か、抱えても、ちょっとしか動かない。 数センチ持ち上げて、セットするだけなのに。 …………女って非力だな。 フウ、 一息ついて抱えようとすると、 「腰痛めたら、どうするんだ?」 浅黒い、 年季の入ったシワの目につく腕が ミキサーを一緒に抱えてくれた。 「社長……」 「重たいものを持つときは、体を落とせ、足や膝も使うんだ」 還暦を迎えたとは思えないパワフルさで、 社長は、ほぼ1人の力でそれをセッティングしてくれた。 『……思ったより、いい人?』 「ありがとうございます!」 「型入れまで時間あるから、それまで他の仕込みをしてきなさい」 社長は、 まるで工場長のように、 テキパキと形成や焼きまでを手伝ってくれる。 そんな、父親を、 正造が、無言で見つめていた。
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