88人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の夢にも不思議がある、幼い頃の缶蹴りの夢。幼馴染の志島や、宗像が当然居るのはよしとして、いつものメンバーでいつもの場所。まだバスケにはまっていない頃だ。
いつものメンバーなのに、一人多いのだ。名前を呼ぼうとしても、そいつの名前だけ声が出ない。
にこにこと笑い、陽だまりのような少年。皆、彼が大好きだった。
夕暮れになると、別れの時間がやってくる。
「又、会えるよ。その時まで、バイバイ」
彼が帰る時は、涙が出るほど寂しい。だから、又会えると、すごく嬉しい。もう別れたくない、ずっと一緒に居よう。そう言っても、又、バイバイと去ってしまう。
夢の最後に、彼が言った。
「いつか本当に会えたら、バイバイは言わない」
繋いだ手が小さかった。この小さい手では、掴んだ力も、大人に容易に離される。だから、大きくなったら、もうバイバイしないよ、彼の言葉を信じていた。
「御形、昔の笑顔は営業スマイルでは無かったのだな…」
御形のアルバムで驚いた。やっと、名前が呼べるようになったということか。
「御形」
夢の中の少年は、御形だったのか。現実で出会えて良かった。
御形の部屋に、そっと置かれていたアルバムに気付いたのは、最近だった。ふと開いてしまい、御形の笑顔に驚いた。いつもの爽やかな営業用とは違い、陽だまりのような笑顔がそこに在った。
「黒井、もうバイバイは言わない」
その言葉に、心臓が止まるかと思った。
「何で、知っている!!」
「直哉に聞いた」
直哉、いつの間に俺の夢も見ていたのか。でも、子供の頃の夢だった、最近の夢ではない。
「現実で出会えて良かった」
いい出会いでは無かったが、結果として、こうやって近くには居る。たまには、素直に返事をするのもいいかもしれない。
「もう別れたくない」
ぎょっとしたように、御形の顔が引きつった。
「別れたかったの?」
そういう意味ではない。
御形の部屋に、最近よく来る。きっちり整理整頓された、モデルルームのような部屋。でも、何がどこに置いてあるのか、最近は何となく分かる。
アルバムは最近まで、置いていなかった。
「缶蹴りな、御形、ヘタクソだったよ」
繋いだ手を離したくなかった。だから、手を繋いで逃げた、夢。
「う、ん、でも、キスは上手くなったよ」
やさしい夢の続きを見よう。
カテゴリーヘブン3 おわり
最初のコメントを投稿しよう!