第1章

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 真里谷の説明によると、世界というのは近似値で幾つも存在するらしい。それが重なり合って、微妙な世界観と深さを作る。その内の半分以上の伊東 宗が事故死していて、自己が保てなくなっているらしい。  他に、事故を否定し続け、成功するまで何度もチャレンジしている、魂の欠片があるらしい。 「目覚めさせるには、二種類がある。一つは、欠片を集め、新しい伊東 宗を作る。二つ目は、暇な魂に伊東 宗の残りの人生を託して生きて貰う」  真里谷、じっくりと伊東 宗を観察しているが、選びにくい選択を迫る。それに、暇な魂など、あるのだろうか? 「確実なのは二つ目で、誰にも別人だとは分からない。厄介なのは、一つ目でこの場合欠片だけなので、記憶がなかったり、人格がなかったりの弊害が残る」  このような重要な事を、俺達が決めていいはずがない。 「欠片にどちらがいいのか?選んで貰おう」  欠片でも、本人。本人の意志を尊重しよう。 「しかし、俺、魂で過去視していたのか…」  魂が無いと、過去視が出来ないとは知らなかった。でも、物に残っている思念でも、過去視をすることがある。 「いや、過去視、できるはず」  再度、挑戦してみたが、やはり、何も見えてこなかった。 「水、止めてみたらどう?」  媒体を無くして、過去視をしてみた。今度は薄く過去が見えていた。 「電波の悪いテレビみたいだ」  ノイズの多い画像だった。 「ドア閉めておいてやるから、翼広げてみたら?」  翼を広げてみると、過去視のノイズが消えた。 「良く見える」  真里谷のアドバイスは的確だった。御形を見ると、御形はじっと伊東 宗を見つめていた。 「ここ病院だろ、いろんな人の強い思念が多すぎて、ノイズになる。一個に限定できれば見える」  伊東 宗に肉体から過去が見えた。それは続く、何気ない日々。アルバイト、学校、彼女、バカ騒ぎ。アパート、彼女、食事。終わるなんて思いもせずに、漠然とした未来を見つめていた日々。  でも、魂のない肉体は哀しい。強い思いが何も無い。 「黒井…もしもだけれども、欠片がこの肉体を放棄したら、恭輔を考えておいてくれ」  恭輔、俺の守護霊をしている、死んだ従兄だった。 「恭輔?」  翼を消すと、又、雑念が多くなった。 「恭輔は、類を見ない強い魂だ。恭輔ならば、魂が世界で一体でも存在できる」
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