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「それでは、どうにかしてください、お願いします。御形(ごぎょう)さん」
ベランダ越しに他の教室から、やって来た御形に荒川が手を合わせた。
この御形、近隣でファンクラブを持つ程の二枚目だった。御形が来るだけで、クラスの女子にどよめきが起こるので、来た事はよく分かる。
「何と言うか、最近話題の噂だね…」
御形、独自の情報網を持っていて、色々詳しい。
「右手は、暗示だと思うけどね」
昨年の台風で、話題の森にあった桜の古木が倒れた。その時、浮き上がった桜の根に、人間の右手の骨だけが絡まっていた。
かなりの騒ぎになり、周辺が捜索されたが、右手だけしか見つけられなかった。噂はそこから、派生したものと推測された。
「しかし、噂には、振り回される」
しかも、桜の木の下に埋まっていた右手。絵になり過ぎる。これは、尾ひれがついて噂になり易い。
「黒井、ちょっとだけ、見てあげなよ」
御形、俺が無理をし過ぎた経緯から、俺のマネジャーをしている。仕事は御形を通して引き受ける、そういう決まりが出来つつあった。
「ありがとう、御形。よろしく黒井」
御形、何の為に俺が霊能力者を辞めたのか、既に忘れているようだ。
俺が、霊能力者を辞めたのは、受験勉強のためもあるが、もう危険に首を突っ込まないでいたいという理由もある。
しかも、俺は、霊の類は全く見えないし、霊の声も全く聞こえない、霊感なしだ。今まで霊能力者をする時は、詐欺技で凌いできたが、それも辞め時と思っていた。
俺は、真面目な人生を送るのだ。
「場所は、ここ!」
御形、すこぶる外顔はいい。にこにこと話を聞き、荒川からメモを受け取っていた。
「御形………」
俺とバスケ部との、いざこざも知っているだろう。俺は、問題を起こし過ぎると、バスケ部をクビになったのだ。
「現在の主将とは、仲が良かっただろう?」
そういう問題ではないのだ。俺が係って、又、バスケ部員である荒川に、迷惑がかかるのも嫌なのだ。
「じゃ、よろしくな」
荒川が、走ってどこかに行ってしまった。
放課後、行かないつもりだったが、御形が先生に呼び出されていたので、一人で帰宅することとなり、つい、メモの場所に向かってしまった。
最寄の駅から、歩いて十五分程。閑静な住宅街の中に、突如、森が現れる。
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