第1章

3/59
前へ
/59ページ
次へ
「それでは、どうにかしてください、お願いします。御形(ごぎょう)さん」  ベランダ越しに他の教室から、やって来た御形に荒川が手を合わせた。  この御形、近隣でファンクラブを持つ程の二枚目だった。御形が来るだけで、クラスの女子にどよめきが起こるので、来た事はよく分かる。 「何と言うか、最近話題の噂だね…」  御形、独自の情報網を持っていて、色々詳しい。 「右手は、暗示だと思うけどね」  昨年の台風で、話題の森にあった桜の古木が倒れた。その時、浮き上がった桜の根に、人間の右手の骨だけが絡まっていた。  かなりの騒ぎになり、周辺が捜索されたが、右手だけしか見つけられなかった。噂はそこから、派生したものと推測された。 「しかし、噂には、振り回される」  しかも、桜の木の下に埋まっていた右手。絵になり過ぎる。これは、尾ひれがついて噂になり易い。 「黒井、ちょっとだけ、見てあげなよ」  御形、俺が無理をし過ぎた経緯から、俺のマネジャーをしている。仕事は御形を通して引き受ける、そういう決まりが出来つつあった。 「ありがとう、御形。よろしく黒井」  御形、何の為に俺が霊能力者を辞めたのか、既に忘れているようだ。  俺が、霊能力者を辞めたのは、受験勉強のためもあるが、もう危険に首を突っ込まないでいたいという理由もある。  しかも、俺は、霊の類は全く見えないし、霊の声も全く聞こえない、霊感なしだ。今まで霊能力者をする時は、詐欺技で凌いできたが、それも辞め時と思っていた。  俺は、真面目な人生を送るのだ。 「場所は、ここ!」  御形、すこぶる外顔はいい。にこにこと話を聞き、荒川からメモを受け取っていた。 「御形………」  俺とバスケ部との、いざこざも知っているだろう。俺は、問題を起こし過ぎると、バスケ部をクビになったのだ。 「現在の主将とは、仲が良かっただろう?」  そういう問題ではないのだ。俺が係って、又、バスケ部員である荒川に、迷惑がかかるのも嫌なのだ。 「じゃ、よろしくな」  荒川が、走ってどこかに行ってしまった。  放課後、行かないつもりだったが、御形が先生に呼び出されていたので、一人で帰宅することとなり、つい、メモの場所に向かってしまった。  最寄の駅から、歩いて十五分程。閑静な住宅街の中に、突如、森が現れる。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加