第1章

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 森の周囲は柵で囲まれているが、ところどころに出入りできそうな、破れがあった。森を一周してみると、案外小さいもので、体育館を含めた、学校の敷地全部くらいの大きさだった。  破れた箇所から中に入ったが、線路側には柵も無いことが判明し、そちら側からならば出入りが自由であった。  小さな丘のようになっていて、登ると、線路を含め反対側までよく見えた。  丘の頂上に、窪みがあり、そこには桜の古木があったと事前に聞いていた。  俺は、霊能力者としては無能であったが、他の能力は持って生まれてしまった。女性にしか能力が出なかった俺の家系にしては、イレギュラーな存在となる。  水を媒体に過去を見る。  鞄からペットボトルの水を取り出すと、丘の窪みに振りかけてみた。  和服を着た青年が、満開の桜の下に立っていた。誰かを待っている。真夜中の桜、提灯が仄かに揺れている。 「ここまでか…」  不調の原因は、電車。今、電車が通り過ぎていた。どうも、この過去視、電気には弱い。 「夜、又来るか…」  電車の来ない時間に、出直しした方が良さそうだった。  森から出ると、線路の近くに、御形が立っていた。 「一人で来るのは危険だよ」  そもそも、引き受けたのは御形だろう。御形に言いかけた文句を飲み込むと、別の台詞を吐いていた。 「偽でも霊能力者をしていたのだから、危険はどうにかするよ」  御形も、俺に対する悪い噂を払拭したいのだろう。他に御形は、バスケに執着もしている、俺の気持ちも知っていた。 「そうじゃない、痴漢が心配」  確かに、森の周辺には、大量の痴漢に注意の看板が立てられていた。 「俺、男だぞ。痴漢に勘違いされるから、注意なのか?」  御形が、溜息を付いた。呆れているといった風情だった。 「分かってないな。黒井、自分の姿を知らないからな。天使って知っているよな」  天使は、すごく良く知っている。 「ああ…知っているけど」  天使は俺の実体だ。 「人間は、天使を見ると手に入れたくなる。そして、天使を綺麗だと思うようにできている」  何となく納得したくないが、頷きはした。 「黒井、自分が天使だということは忘れていないよな」  つまりは、俺が痴漢に襲われる可能性があるから、心配ということなのだろうか。
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