第1章

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 男同士だからではなく、確かに、何か吐きそうな光景だった。どこがと言われても困るが、甘々ではなく、何か病的であった。  でも、この弟、兄と血が繋がっていないことを知っている。どこか、繋がりを切られる事を、怖がっているのだ。 「どうしようか?」  過去に、見てしまって、激しく後悔したことがあるが、夜も見てみるか? 「いつも、興味に負けるな…」  今回も、直哉は興味に負けたようだった。  夕食後、風呂につかり、御形に理由をつけて部屋に籠ると、直哉に目配せする。 「見るか?」  覗きのような気分であったが、この兄弟はどこかがおかしい。  直哉の千里眼で見てみると、想像通りにこの兄弟はデキていた。それが分かれば、それ以上は見る意味もない。  兄は自分の居場所を求めている、弟は兄を失う事を怖れている。彼らは、だから体を重ねる、恋ではないが、心の安定のためにはせずに居られないのだ。  激しい不安に共鳴する。俺にも、かつて居場所のない時期があった。 「直哉、共鳴した。言霊、飛ばして」  俺は、共鳴により言霊を伝える事ができる。 「真実は、偽りの不安よりも大きく、未来は互いに造るもの」  直哉が、言葉を光に変えて飛ばした。この言葉が、どう影響するのかは、俺には予測が出来ないが、偽りよりも真実を見つめて欲しい。  真実の上にならば、どんな恋愛でも、こんなに病的だったり、不安定にはならないだろう、と思う。 「届いたかな」  ちらりと、直哉が千里眼を使ったようだ。 「二人が話し始めたようだよ」 「家族にも兄弟にも、信頼が必要と言えばよかったかな」  あまり明確な言葉は飛ばせないのだ。曖昧な言葉で、心に響けばいいだけだ。 「信頼が必要か…」  俺が、世界中で一番信頼しているのは、直哉。それは、天界で、俺を育てた者が直哉であったためだ。今も、従兄で親友の直哉だが、信頼は変わらない。  状況が変わっても、変わらない思いがあるのだ。直哉も、自分の守護者を俺につけてしまっていた。 「しかし、吐きそう」  なまじ、本当に弟が居た直哉なので、精神的なダメージが大きい。 「吐いてもいいように、夜食、買ってこようか?」  コンビニまで、十キロメートル。御形家の台所には、御形の両親が居る。腹が減ったなどと、心配させるわけにはいかない。 「いや、非常食が鞄にある」  そう言えば、俺もカップラーメンを隠し持っていた。
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